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「内モンゴル人権法」を制定せよ

「内モンゴル人権法」を制定せよ

 

   正論

 

        文化人類学者・静岡大学教授 楊 海英

        

 米国のトランプ大統領は6月17日、ウイグル人権法案に

署名した。

議会の超党派の支持を得ていた同法の成立により、

ウイグル人弾圧に関与した中国当局者に制裁を科すことが

可能となった。

中国は新疆ウイグル自治区で100万人以上のイスラム教徒

強制収容所に閉じ込め、ウイグル語での教育を禁止し、

抵抗した者を殺害するなど厳しい弾圧を続けてきた。

 

 

文化的ジェノサイド許すな

 

 新疆の陰に隠れたかたちだが、中国の内モンゴル自治区では

苛烈な文化的ジェノサイドが断行されている。

内モンゴルでは今秋から中学校以上の教育機関ではモンゴル語

による理数系の授業がすべて停止を命じられ、代わりに中国語

の使用が決定された。

小学校でも3年生からモンゴル語だけでなく、中国語と英語の

併用は以前から導入されてきたが、実質上は中国語一辺倒である。

中国語をマスターすれば、将来の進学と就職に有利だと

政府は公的なメディアを動員して宣伝する。

同時に裏では「モンゴル語は立ち遅れた少数者の言語で、

近代化に不向きだ」と幹部たちは説得して回っている。

 

 内モンゴルにおけるモンゴル語教育の廃止方針は、

新疆ウイグル自治区での「成功例」を模倣としたものである。

新疆では2018年からモンゴル語の教育が廃止された。

同自治区には2つのモンゴル自治州と、3つのモンゴル人居住

地域があり、母語による高水準の教育を維持してきたが、

それが政府によって破滅に追い込まれた。

当然、ウイグル人に対しても同様で、中国語の教育が強化され、

母語を忘れたウイグル人が増えるように仕向けてきた。

 

 特定の言語が近代化に不向きだ、との理屈は成立しない。

モンゴル語は13世紀からユーラシアの世界帝国の共通語の

地位を獲得していた。

モンゴル帝国が崩壊した後も、18世紀末までは中央アジア

各政権の外交用言語であった。

一時は清朝が南アジア諸国と外交使節を交わす時にも

使われていた。

内モンゴルでは、1980年代初期から大型コンピューターの

開発にモンゴル語ソフトが開発されていたので、

場合によっては中国語ソフトの登場よりも早い。

 

 

モンゴル語を禁止する狙い

 

 ではなぜ中国政府は執拗にモンゴル語を消滅しようと

するのか。

それは同地域が日本と特別な関係を結んできたからである。

大日本帝国時代に誕生した満州国の西部はモンゴル人自治地域

だった。

満州国の西隣のモンゴル自治邦(時期によってはモンゴル軍政権、

モンゴル聯盟自治政府、蒙疆とも)も日本軍の支配下にあった。

 

 要するに現在の内モンゴル自治区の3分の2に当たる

広大な草原が日本の植民地かコントロール下にあって、

日本人と友好関係を結んでいた。

例えば、著名なジャーナリストの大宅壮一も

「(モンゴル人は)容貌や言語の上からいっても、かれらは

支那人に比してはるかに日本人に近い」

と述べていた。

モンゴル人は単純に「日本に協力」したのではなく、

日本軍の力で中国からの独立を目指していた。

日本もモンゴル人の目標を理解し、支持していた。

 

 戦後、内モンゴルは中国に占領された結果、モンゴル人の

「対日協力」が問われ、文化大革命中に34万人が逮捕され、

12万人が暴力を受けて倒れ、2万7900人が殺害された。

それでもモンゴル人は抵抗し1981年に大規模な

反中国人移民の政治運動を起こした。

その時最高指導者の小平は有名な指示を国内に出していた。

「内モンゴルの真の脅威は東部にある。

 偽満州国の一部だった地域のモンゴル人は信用できない」

との「勅令」である。

 

 内モンゴルから日本に大勢のモンゴル人留学生は来ているが、

それも日本の影響下にあった地域出身者が圧倒的に多い。

中国政府が今でも不信の視線を浴びせ続けている地域、

自治区東部からモンゴル語教育の中止を命じたのも、

そうした歴史があったからである。

 

 

日本政府は毅然と抗議せよ

 

 日本に対し、「侵略した」「しなかった」という反日的な

歴史観に基づく非難は過去にも今も内モンゴルにはない。

だからこそ、日本は旧宗主国として内モンゴルのモンゴル人が

置かれている状況について北京当局に抗議すべきである。

フランスやベルギーなどがアフリカ諸国の元植民地に対して

積極的に介入しているのと同様に、中国にものを言うべきである。

 

 日本政府は中国の少数民族の人権問題と香港の自由維持、

それに新型コロナウイルス感染拡大に関する中国の責任問題に

腰が引け、毅然と批判しようとしてこなかった。

こうした対中宥和姿勢はトランプ政権の不信を招いている。

 

 沖縄県の尖閣諸島をめぐり、周辺の日本領海に中国公船が

侵入を繰り返す日本への主権侵害も相変わらずだ。

こうした中で「日中友好」を国是とするならば、米国の若者は

どうして「尖閣死守」のために命を捧げるのか。

過去の盟友であったモンゴル人の命運に関心を注ぎ、

日米同盟に忠実であり続けるという侍精神を忘却してはならない

のではなかろうか。

 

(よう かいえい)2020.7.2

 

 

 

             I.N.O

                        (今・・・何を・・・思う・・・)

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